第1回 タイと日本の会計違い

タイ税務署への提出書類の複雑さ タイで事業を営む時、税務当局に提出する書類のあまりの多さ・煩雑さに辟易とします。 税務申告は毎月上旬を期限に必ず行わなくてはなりません。 請求書、領収書、源泉徴収票など書類(ドキュメント)も一通りきっちりとそろっていなくてはなりません。 しかも、これら書類には全てに、事業所の課税番号(TAX ID)や登記場所の住所、その記載地に本社機能が置かれていることの記載(Head Office)が必要です。無記載のままでは経費として認められません。 例外は少なく、高速道路や鉄道駅で受け取る簡易式の領収書など数えるほどしかありません。 ◆日本では管理会計、タイでは税のための会計 日本で「会計」と言えば、業種別会計を基礎とした管理会計を指しますが、タイではそこまでのものは求められておりません。 日本では借方と貸方を対照とした複合仕訳を採りますが、タイでは単一仕訳に止まります。 タイで毎月の義務として課されている税務申告も、日本では半期毎です。つまりは、日本とタイの会計は感覚からしても全く別物と言うことができます。 それは、例えば請求書(Invoice)を発行するタイミングにも表れます。 日本では流通関連は出荷基準、生産管理では検収基準が多いです。すなわち日本では各企業が請求書発行の基準を決めているのに対し、タイでは税務署が出荷基準とするように指示しています。 このような違いが生じるのは何故なのでしょうか。 その理由の大きな一つに付加価値税(VAT、日本の消費税に相当)および Withholding Tax(源泉徴収税)の存在が挙げられると考えられています。 国の財源は税率10%(政策により7%に時限的に引下中)のVATに依るところが大きく、大きなウェートを占めています。 これを確実に徴収するため政府は日々の帳票の記載、膨大な税務署類の提出を求めているのです。 ごく簡単にまとめれば、タイの会計は管理のためというより、税務のためにある会計と言うことができるでしょう。

第2回 BOIに対応した会計について

◆タイ資委員会(BOI)の恩典と義務 タイで事業を展開するにあたり、タイ資委員会(BOI)との関わりは避けて通ることはできません。 工業省直轄の同委員会は1977年に設置され、投資申請の認可や恩典の付与など企業誘致の窓口役を担ってきました。 東京や大阪などにも事務所が置かれ、海外にいながらにして相談が受けられる仕組みとなっています。 投資申請が認可されると、通常でも5年間の法人税が免除、タイの国外販売時の輸入関税の免除、資本金200万バーツ・タイ人4人/1名の日本人の条件が免除されるなどの恩典を受けることができます。 ところが、恩典という得られる「利益」に合わせて、課される「義務」も増えてきます。 その最大のものが勘定科目のうち「BOI会計」と呼ばれるものと「NON-BOI会計」と呼ばれるものの区分です。BOIが認可した事業を通じて得られた収益や要した経費は、認可の対象ではないNON-BOI事業とは明確に分けて会計処理する必要があります。 それは例えば、工作機械などの設備類や電気代、水道代、給与、サーバー代といった必要経費や在庫などにも及びます。 でも、よく考えてみてください。 一つの同じ事業所内で行われている業務を一つずつ細分化して、「ここまではBOI、ここから先はNON-BOI」などと区分することは果たして可能であり現実的でしょうか。 このため、実務では一定の比率を乗じて区分する方法が採られているようですが、それもまちまちです。 ◆BOIと結びつきの強い会計 会計市場では「BOI対応ソフトウエア」などと謳ったサービスが盛んに宣伝されていますが、運用上、クリアすべき課題は山積しています。 とても一朝一夕でできるものではありません。 会計作業は日々行われなければなりませんから、その負担も膨大です。対応ができなければ、罰金などのペナルティも課されます。 国の関与が極めて強いのがタイの会計であるという現実を直視して、専門のコンサルタントに相談するなどの次善の対策が必要です。

第3回 タイの税金について

◆タイの税の種類 タイで外国人が事業を営む場合、知っておくべき税金の種類や仕組みに、 ①法人税 ②付加価値税(VAT) ③源泉徴収税(Withholding tax) ④個人所得税 などがあります。 相互に密接に関連しますが、タイにおける税制は「国による税の徴収」を最優先に組み立てられておりますので、多く納め過ぎた場合の還付がしにくいなどの特徴があります。 仕組みをよく知り、専門家の助言を得る必要があります。 ◆付加価値税(VAT) 理解のために、まず②のVATから説明します。 現行では7%に据え置かれているVATは、商品役務に付加された価値に対して課税され、最終的にはエンドユーザーが負担します。 しかしながら納税は生産、流通、販売などの段階ごとでその都度行われており、物販の場合ですと事実上の先払いとなります。 このため税金を納める側からしますと必要以上に金利負担を強いられたと同じ結果となってしまい、しっくり来ないことが少なくありません。 ◆源泉徴収税(Withholding tax) 次に、③の源泉徴収税(Withholding tax)です。 この制度は法人や個人の収入から発生する税金を漏れなく徴収することを目的に導入がされました。対価の支払者が受領者に代わってあらかじめ一定の割合で徴収し、代わって国に納めます。 税率は内容により細かく区分されており、法人による海外向け取引ですと15%というものもあります。 支払者はあらかじめ決められた書式に従って、1カ月分をまとめて翌月の7日までに税務当局に納めなければなりません。 ◆税過払い時の還付請求 この源泉徴収税と①の法人税をめぐって還付の問題が発生します。タイの法人税は現在、中小企業などを対象に減免措置が採られています。 源泉徴収税は見方を変えれば、法人税の前払いと考えることもできます。 すると、本来は課税されない、あるいは利益が出ずに非課税となる場合であっても、法人税が徴収されているということになります。 当然に還付請求ができるのですが、実際は求められる書類が膨大であるなど簡単には進みません。 請求によって税務当局に必要以上の関心を向けられる場合もあります。

第4回 商社向けERPと製造業向けERPの違い

◆商社向けERPと製造業向けERPの比較 ERPシステムは、商社向けERPと製造業向けERPが存在します。よく聞く話では、製造業で商社向けERPを導入し在庫把握ができないという内容です。 ERPを導入する場合は、自社の業態にあわせたERPシステムを導入しないと結果的に目的とする管理はできません。 そこで、商社向けERPと製造業向けERPについて比較をしたいと思います。 ・会計処理 会計処理事態について商社向けERPと製造業向けERPで大きく違いません。 違いは、商社向けERPでは製造品在庫の扱いが難しいです。 ・在庫管理 商社向けERPでは中間仕掛品 (Work in Process)の管理が難しいです。 製造業向けERPでは、ロケーション別に、中間仕掛品 (Work in Process)を含むリアルタイム在庫の把握ができます。 また、在庫の引落としのタイミングが、商社向けERPではInvoice発行時で、製造業向けERPではリアルタイムです。 ・部品表 製造業向けERPではストラクチャー部品表、商社向けERPではサマリー部品表です。 サマリー部品表では、組立て、工程順序などの表現ができません。 ・MPS(Master Production Schedule)とMRP(Material Requiment Schedule) 製造業向けERPに付属する機能で、商社向けERPには通常ありません。すなわち、商社向けERPでは生産指示の概念がありません。 基準日程生産計画(MPS)と資材所要量計画(MRP)を参照してください。 ・原価管理 商社向けERPでは製造原価計算が部品表の特性上難しい。 以上のように、商社向けERPでは生産管理の要素に乏しく、事実上生産にまつわる管理は非常に困難です。 ◆製造業における管理の選択肢 製造業における管理システムの導入はいくつかの選択肢があります。予算と管理レベルに応じた導入が重要となります。 ①製造業向けERP(生産管理+会計)を導入する。 ②会計を導入して、あとから生産管理を導入する。 ③会計を導入して、生産管理はすべてEXCELで管理する。 言うまでのなく、①が一番よいのですが予算がない場合、②③の選択肢もあります。 ②の場合、①に近づくのですが投資金額の総計は結果的に①の方が安くなります。②の場合、会計と連動のためのソフトが必要となります。 ③の場合、一番安価でタイではこの状態の企業が多いです。しかし、管理面においてEXCELでは限界があり、また属人化は避けれません。 このように、選択肢により管理レベル違いますので、投資の際十分な検討が必要です。